「うわ、みんな来てるんだぁ…」
野球の試合を見にきたのなんて初めてだ。普段テレビの中継だってろくに見やしないんだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。
正直なところ、阿部から「…試合、見にこいよ」なんて言われなければ今ここには居なかっただろう。
ルールだって大して知らない、ポジションってなに?というくらい興味が無いのだから。
「あ…っ」
西浦のみんながぞくぞくと中に入ってきた。凝視し続けていたら、阿部がスタンドの方をちらりと見た。
・・・と同時に周りから声援が飛び交う。
きゃー、あべくーん、頑張ってー、勝てよー、四方八方からの声援の中、阿部が少し笑った、気がした。
私も何か声を掛けようと口元に手を当て、大きく息を吸い込む。が、喉からひゅう、とわずかに音が漏れただけであった。
彼はそんな私に気付く筈も無くそのままチームメイトと一緒にベンチへと向かっていく。
その背中に向かって呟くと何故だか無性に泣きたくなった。どうしたんだ私、まだ試合は始まってもないのに。
「がんばっ…て、」
手を掛けた金網がカシャンと鳴ると同時に、大した距離が離れているわけではないというのに、阿部が酷く遠い人に見えた。
きっと、このフェンスは私と彼の世界との仕切りなのだ。だってほら、あんなに嬉しそうなかおしてる。
あんなに生き生きしてる阿部、野球以外で見たことないよ。
フェンスに隔てられたこちら側に居る私には、彼の味わう楽しさは理解出来ない。
こちらから味わえるのは、ただ応援しか出来ない、という切ない疎外感ぐらいだろう。でも、それでもいい、と思えた。
至極楽しそうな彼の表情をみると、微かな寂しさと共に、甘く胸がうずいたのだ。
鏡の国の貴方へ
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やっぱり彼は難しかったよ・・・(不完全燃焼)
全国のファンに全力で謝罪したい。今から穴掘っていいですか?(…)
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