午後一番の授業、食後に座学というのは睡眠時間を提供するに等しいとしか思えない。お腹はいっぱい、暖かいな日差しで気温も良いかんじとくれば眠くなったって仕方ないのだ。だって、ほら、私たち成長期だし。
言い訳をいくらしようと睡魔は容赦無く襲い掛かってくるわけで。眠気を紛らすためにぐるりと教室を一瞥した。寝てる人、真面目にノートを取る人、こっそり内職してる人。明らかに机に突っ伏している人口が多い。 お陰で一番後ろに位置する私の席からでも視界は良好だ。
これだけみんな寝てるんだ、ならば隣にいる野球バカこと榛名元希だってそうだろう、と視線を横にずらした。その、なんというか、授業中常に眠っている榛名の顔を盗み見るのが毎日の日課だったり、する。 だって黙っていれば恰好いいんだもの。黙ってさえいれば。喋ると俺様だけど。しかもばかだけど。なんせアイツは起きている授業の方が少ない。毎回毎回ノートをコピーさせてあげる私の身にもなれってはなしだ。
ところが、私の予想は見事に裏切られた。榛名が若干姿勢は悪いものの、シャーペンを握りノートに何やら書き込んでいる。そんなばかな。必死に今日の天気予報を思い出す。 たしか降水確率は20パーセント、山岳部を除いて雨の心配はありません、洗濯物がよく乾くでしょう。よしずみさん、きっと外れです、今日は嵐です、間違いありません。傘要らないとか信じちゃったじゃないですか。 いやいや、でもノートに書くとかいってどうせアレでしょ、端っこにパラパラ漫画とか書いてんでしょ。そう思って覗き込むと……驚いた。フツーに板書写してやがる。一体何が起きたっていうんだ。
散々不思議に思いながら手元を見続けていると、ぴたりとシャーペンが動きを止めた。


「なに、そんなに俺のこと見つめて。見とれてた?」
「ばっ……、かじゃないの!私そんなに暇じゃないし!」
「嘘つけ暇人」
「う……」
「どーせいつも週末とかやることないくせに」
「ううう、」
「図星か」


ノリで言ったらうっかり図星だったのだろう。深く精神的ダメージを受けている私に可哀相な物を見るような視線が送られてきた。失礼極まりないヤツだ。事実だから言い返さないけど!やなやつやなやつやなやつ!
ムッとした表情で固まる私を尻目に「そうかー週末暇とは可哀相だなー」とかぶつぶつ酷い内容を呟く声を発してきた。


「じゃあさ、」
「ん?」


何がじゃあなのか分からずに首を軽く捻る。ひとり納得して頷くととんでもないコトを宣った。


「明後日の試合観に来いよ!したらおまえ絶対俺に惚れっから」


ニヤリ、腹の立つ表情で言い放つと、びしりと指差された。今時そんなクサイ台詞言う奴なんてそうそう居ないだろうけど、榛名が言うと不思議と様になっていた。ていうか恰好いい。 不覚にもときめいてしまった私はいつもの憎まれ口を返すことも出来ずに「わ、わかった…」ぎこちなく頷いてしまう。 満足げに微笑み、ぜってーこいよ、来ないとぶっ飛ばすからな、などといつも通りの俺様っぷりに動揺したのは私だけなのかと悔しくなった。 さっきのはうそ、寝てる時だけじゃなくて笑ってる榛名も恰好いい。きっと野球やってるトコなんてもっと凄いんだろう。

私の敗北宣言まで、きっと、あと少し。





カウントダウン!






(再放送を見て再加熱しました。榛名さんかっこよすぎです。)