優しげに私の名を呼ぶ声も、照れた時に気まずそうに俯く仕種も、緩く頭を撫でる手つきも、みんなみんな大好きだけれど、私が一番すきなのはきっとあの瞳なのだと思う。


?」
「あ、すぐ行きます!」


四半町先で振り向いた一さんが苦笑いを零す。


「急がなくていい。いつかのように転ぶぞ」


同じように声を掛けられ、小豆の入った笊ごと転倒したのは記憶に新しい。
あのことは忘れてって言ったのに。
意地悪く細められた目に膨れっ面を返した。


「冗談だ」
「嘘だあ。本当に転ぶって思ってたくせに」
「……」
「え、否定してくださいよ」


本気で私がこけると思ってたんですか。こんな何もない所で。確かに前科はあるけど。また転ぶって思ったんですか。
じとりとした視線を投げ掛けると、近寄ってきた一さんが軽く頭に手を乗せた。他のみんなみたいに掻き交ぜるのではなく、ぽん、って軽く乗せるだけ。てのひらから感じる熱がじんわりあたたかい。


「冗談、だ」


軽く漏れた吐息、弓なりに細められた瞳。
あ。私がいちばんすきなかお。
手の平から伝わった熱が全身に回ったような気分になって、思わず私も照れ笑いを浮かべた。



あの留紺越しに世界はどう映っているのだろうか。あの瞳に私はどう見えているのだろうか。一度見てみたい、だなんて言ったら笑われるだろうか。

私からすれば彼はこんなにも輝いてみえる。彼の目に私もそう映っていればいいな、なんて、我が儘かしら。





きみいろのせかい