わらった



「                 」
「……え?」

朝食の時間を大幅に過ぎ、隊士の居なくなった食堂でボソリと土方が呟いた。
カチャカチャ音を立てながら使用済みの皿を洗っていたは「何ですか?」と水を止めて手を休めた。

「…しらばっくれるつもりかテメェ」
「へっ? 何のことですか?」
「誰の手の内のモンだ、アァ?」
「いや、ですから 何のことだかさっぱり…」

「チッ」盛大に舌打ちをすると食べ終えたお膳を乗せての方へと向かう。 一方のは軽く微笑んだまま戸惑ったように首を傾げていた。






ガシャン


土方が手にしていたお盆と、が手にしていた皿がどちらも床に落下し、盛大な音を立てた。
先に動いた土方は抜刀し、その得物を目の前の女中に向かって突きつけていた。 それをその女中はどこから出したのか、短刀で受け止め、更には空いたもう片方の右手にももう一本短刀を携えていた。

「ほお…」
「…なんのつもりですか、土方さん?」
「寧ろこっちは何で唯の女中が俺の刀を受け止てンのか訊きてェんだけどな」
「…護身用です、コレ」

ヒラヒラと右手を振って短刀を見せびらかす様に振る。  その様子に呆れたように「そうか、」と呟くとシニカルに笑った。それにつられても同じ様な表情で笑い返す。 日頃、花の様な微笑みで隊士から好評だった彼女からは考えられないような、笑い方で。

「で、お前は何が目的だ」
「ですから、何のことだかアタシはさっぱり、」
「何時までこんな茶番を続けるつもりだッつってんだよ」

最初に話しかけてことを繰り返すと、苛ついた様子を隠そうともせずに言い放つ。

「…テメェが攘夷派志士の一派だってのは割れてンだよ」
「……」
「ウチの山崎舐めてもらっちゃァ困る」
「…そう。」

「思ったより早かったなあ…」ぼそぼそ呟くと普段の様な非の打ち所の無い、しかし土方が常々胡散臭いと感じていた笑みを浮かべた。

「中々頑張ったつもりだったんだけどなァ…」
「……」
「コレでも役者志望だったのよ?」
「…テメェはどっちかって言うと道化だがな」
「道化…ピエロか? ハハッ傑作だ」

どこか焦点の合わない瞳でそう言うと、右手の短刀を手放す。そして、土方が未だ突き出したままの刀を握った。



「さあ、早く殺して?」


刀を握った手から血が滴り落ちて、皿を洗っていた泡を赤く染めた。



はないて