つくづく、このヒトは俺の事を全く相手にしていない気がしてしゃあない。
毎日毎日保健室に休み時間の度に通っては「愛しとるでー」などとラヴコールをおくってはいるものの、日々適当にあしらわれている。
この間「所詮アレでしょ?学生ってのは禁断の恋みたいのに憧れるんでしょー?
どうせならクールビューティーな英語の先生のとこいっといで(シッシッ)」と言われた時に確信した(しかしアレはショックやった)。
と、言う訳で、今回は少々積極的になってやろうと思うております。
「ねー忍足くん、あと2分で5限目始まるから!昼休み終わっちゃうから!」
「えー…英語やからサボるー…」
「なっ…っていうか前に榊先生の音楽遅れたでしょ!?」
「あぁ、ちゃんが俺の手ェ看とった時?」
「ちゃんじゃありません」
ぴしゃりと言うと同時に大層嫌そうに顔を歪めながら あー榊センセだけじゃなくって学年主任に怒られたんだからー…と
ブツブツ呟いていた。(って言うかあの時の手首なんとも無かったよね?君普通に放課後部活やってたじゃん!)
ビシッと指差してきた手をすかさず掴む。指でも咥えたろかと思って顔を近づけると俺の手を振り払ってから、ぺちりと頭を叩かれた。
其れと同時に授業開始の鐘が鳴り響いた。
「…教室帰りなさい!」
「ヤや」
「(コイツ…ッ) 勉強が学生の仕事でしょうが!ホレ、早う帰る」
しっしと右手を振られた。俺は犬とちゃう。
「んー…ちゃんがキスしてくれたら考えんでもないんやけどなあ?」
ぐるぐる廻していた椅子をぴたりと止めてニヤニヤと彼女を見やる。呆れたように「馬鹿言ってんじゃないっ」
と言われていつもの様にぺいっ、とでこピンでもかまされる、と、思っとった、ら、
多分、2、3秒程度。超至近距離に彼女の顔が在って。俺は自分から言った癖に驚きすぎて、目を瞑る事さえ忘れていた。
「約束、よ?」
「…」
少し顔を離してさも愉快そうに言い放った。…完全に、俺の負けを悟った。
あまりに予想外で、未だに呆然としている俺の顎を、彼女が掬い上げた。そして、親指の腹でくい、と俺の唇を拭う。
「口紅、付いちゃったわね」妖艶な笑みと共に。
余裕全開で良い様にされっ放しなのは俺の性に合わんから、逆に顎を掴んで、短くキスをしてから授業へ向かった。
瞬きするほど長く、
(このキスが続いて欲しい)