今日は随分といい天気だ。
最近はこの季節特有のじめじめと蒸し暑い気候が続いていたけれど、今日は珍しくカラリと晴れて、カーテンを揺らす風が心地良い。 詩的に言えばこんなところだろう。要はただ単に暑いだけだ。 初夏の日射しが私の元々大して白くもない肌を少しずつ焼いていく事だけが、この席の、窓際の難点だと思う。 そんなことを考えながら、ちらりと斜め前に座っている忍足くんに目をやると悲しくなった。 どうしてテニス部の彼の方が帰宅部の私の方が黒い肌をしているのか。 学校の往復と体育の授業ぐらいでしか日に当たっていないのに、なぜ。
私の一方的な妬みなど知る筈もなく、彼は癖のある黒髪を垂らして数学の教科書に目を落としている。
すごくすごく、綺麗な顔だと思った。
顔だけじゃない。シャーペンと共に忙しくノートの上を動き回っている手も随分と綺麗だ。 女の子の手の様な綺麗さではなく、骨張った手の甲に長い指。すごく、綺麗。
顔を見続けるのは流石に恥ずかしくて出来ないけれど手の動きを見続けるのは何の躊躇いもなかった。 私は自分のノートなんてそっちのけで忍足くんのノートを取る様子に魅入ってしまった。 忍足くんの長い指に挟まれたシャーペンが素早くノートを埋めてゆく。きっと彼の字も綺麗なのだろう。

、と頬杖をついてぼんやりと物思いに耽っている所にふと、名前を呼ばれた気がした。 まったく授業中だっていうのになんなんだ。軽く溜め息を吐いて顔を上げて声のした方に、は、
「溜め息を吐きたいのはこっちの方なんだけどなぁ、?」
「ひっ…!先生…!」
満面の笑みを浮かべた数学教師がこちらを見下ろしていた。背中からは修羅のようなものが除いている。 怖いです、先生。思わず椅子ごとひっくり返るところでしたホント。
私の驚き方が凄まじかったのか、教室中が笑いの渦に巻き込まれる。

ちらり、斜め前の席を見てみると日頃無表情な彼の唇が緩く弧を描いていた。お、したりくんが、笑ってる・・・。 些か驚いた私は彼から目が離せなかった。

ぱちり、







たまゆら
目が、あってしまった。