「…っ、はやてっ!」


切羽詰まった声、今にも泣き出しそうな表情で病室に飛び込んで来たヴィータに思わず読み掛けの本を落としてしまった。


「け、怪我したって、しかも演習がなのはとで、」
「…いや、それはやなヴィータ」
「あ、あいつのアレをうっかり喰らったって」
「ヴィータ、」
「すごい、大怪我だってシャマルが、」
「ヴィータ!」
「…っ!?」


私が急に大声を出したのに驚いたらしく、ビクッとなってから面食らった顔でこちらを見てきた。 あぁ、さっき名前呼んでたのは気付いてなかったんやね。まあそれくらい気が動転してた、って事だから別にええんやけど。


「演習中にうっかり怪我したんはホンマやけど、なのはちゃんのは喰らってへんで」
「え…ほんと?」
「そもそもアレ喰らって生きとったら人やないやろ」
「……それ本人に聞かれるなよ」
「善処します」


ぷっ。小さく噴き出した私とは違ってヴィータは依然硬い表情のままで。わしわしと頭を掻き交ぜても不機嫌そうに睨んでくるだけだった。


「…心配、したんだから。ほんとに」
「そーんな心配せぇへんでも大丈夫やって。心配しすぎや」
「でも…アタシだけじゃなくて、みんなも心配してるんだからな」
「あー…フェイトちゃんとか大騒ぎしてそうやな…」
「後で見舞いに来るっつってたぞ」
「うー、あー…。なんか悪いなあ…」
「そう思うならもう怪我なんかすんなよ」
「はぁーい…」

でもな、ヴィータ。

「ヴィータがそんなに心配してくれるんなら怪我も悪うないな」
「な…は、はやてっ!」
「ついでにナース服着て看病してくれたらええなぁ。あ、なんか早く治りそうな気がするんやけど」
「はやて、いい加減にしろよ!ほ…本気で…しんぱい、したんだから…」


徐々に覇気がなくなっていく声にやり過ぎたか、と少し反省。じわりと目尻に溜まった涙を拭って、それを舐めとった。瞬間、怒りと羞恥でヴィータの顔が朱に染まる。


「ア、アタシは…怒ってるんだからな…っ!」
「ん、わかっとる」
「分かってるんならもっと…!」
「…うん、ごめん、ほんま」


ヴィータがこんなに怒る理由だってわかってる。私が逆の立場なら同じ様に、いや、これ以上に怒るに決まっとる。それでも演習で手を抜くなんて以っての外、まったくの別問題だ。


「ヴィータ」
「…なに」


不機嫌さを隠そうともせず、半眼でこちらを睨んでくる様子に思わず苦笑い。包帯に巻かれた右手を伸ばして、鮮やかな朱色の頭を掻き交ぜた。


「私が無茶するんはもうどうしようもないんよ。せやから、」
「どうしようも、ってはやて…」
「せやから。ヴィータがウチのこと見張ったってや」
「……!」
「な?」


言わんとしてることを理解したらしく、大きく見開かれた瞳はやがて弓なりへと変化していった。照れ臭そうに笑いながら、わざとらしく口を開く。


「し、仕方ねーな!はやて一人じゃ心配だからアタシが傍で見張っててやるよ!」
「ん、よろしゅう頼むわ」


一度目を合わせて苦笑いをすると、頭に置いていた手を退けて右手を絡める。ありがとな。呟いてから不意打ちでヴィータを引き寄せて、軽くキスをする。
ここ最近は忙しくて家に帰ることすらまちまちだったのだ、退院までは、ゆっくりさせてもらお、などと考えながら再び目を閉じた。





流転する愛の行方






title:ロストブルー